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キープ奏法~1音1音単位で考える弊害

一見良さそうな発想に思えるものの、私自身の体験上、タッチのキープが乱れ易くなる要注意な発想の一つに、「1音1音単位で」という考え方がありますので、ご紹介致します。

 

どういうことかと申しますと、前回取り上げました「強弱を自在に使う」という発想と関連しまして、より表情豊かで細やかな演奏を目指す方向性の中で、考えを突き詰めて参りますと、「全ての音を感じて弾かなくては」⇒「1音1音単位で全ての音を感じて」という発想が生まれることがあり、これが要注意なのです。

 

この発想は、テンポを落としたゆっくり練習等の際にも生まれやすいのですが、「1音1音単位で」音楽を感じ始めますと、私の体験上ほぼタッチのキープの感覚があやふやになり、タッチのバウンドが多発する状態になります。私はこれまでに何度もこの状態に陥り、しばらく抜け出せなくなったことがありますので、同じようにならないよう是非注意していただきたいのですが、そのためには、「強弱を自在に使う」時も、常に大前提としてタッチのキープを意識し、あくまでも流れを感じる中で弾くことが大切だと思います。以前も書きましたが、そもそも強弱とタッチのキープは関係がなく、理屈と身体両方でキープ奏法のコツを掴めますと、このような問題は生じないのですが、どうしても手、指の細かな感覚を混同してしまい易い部分なので、レッスンでは私自身が何度もつまずいた経験を基にアドバイスさせていただきます。

 

以上、今回は要注意な発想「1音1音単位で考える」ことについて取り上げました。

強弱を常に滑らかに繋ぐ「持っていく」演奏でタッチをキープできるようになった後は、「強弱を自在に使い」つつ、タッチをキープすることが大きな壁となる部分だと思いますが、ここを乗り越えますと、これまで弾いていた曲によりたくさんの演奏の可能性があることに気付き、新たなピアノ演奏の面白さが見えてくると思いますので、是非焦らずにリラックスしてトライしていただければ幸いです。