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キープ奏法〜「脱力問題」②

昨日に引き続き、脱力問題の二つ目です。この問題を考える前に、一旦「キープ奏法」と「タッチ」という言葉の定義について再確認致します。

 

まずキープ奏法とは「演奏の最初から最後まで同じタッチをキープして弾いていく奏法」でした。そしてタッチとは、先日のブログ「タッチについての考察」の通り、「手の中の緊張のさせ具合(別の表現では「指をどれだけ上げているか」)、それにプラスして、指を十分に使った時に鍵盤の底にどれだけの圧力(重さ)を加えるか」によって決定されると定義しました(実際に出てくる音は、それらに加えて指の強さも影響を及ぼします。また、その他楽器の違い等についてはここでは考慮致しません)

 

以上、「キープ奏法」、「タッチ」という言葉の定義を確認の上で、キープ奏法での演奏上の注意ポイントを考えますと、以下の様に言えるのではないでしょうか。

 

キープ奏法で弾くためには、どのようなタッチで弾き始めてもそのタッチをキープし続けなければならない。

言い換えますと、

どのようなタッチで弾き始めても、そのタッチをキープしたまま弾いていけばキープ奏法になる。

 

そして、ここからが脱力問題の二つ目になるのですが、まず、ステップ1でおすすめしている「手を楽にした(指をあげない)タッチ、それこそ脱力がされたタッチ」で弾く場合は、最初から最後まで常に脱力し続けた状態で弾いていくことになります。一旦コツを掴むことができれば、一番合理的でキープがしやすいためおすすめしておりますが、脱力したままのタッチで弾いていくための指の力がまだついていない場合、特にタッチをキープしたまま大きな音を出すことが難しく、演奏が全体に弱々しくなってしまったり、無理に大きな音を出そうとしてタッチが狂う原因となりやすい点は注意が必要です。

 

次に、手の中にいくらかの力が入った状態で弾き始めた場合ですが、キープ奏法のためには同様にタッチを変えないで弾き続ける必要がありますので、手の中の力の入り具合(指の上げ具合)、そして指を十分に使った時の鍵盤の底への圧力を常に一定にキープしたまま弾いていく必要があり、私の経験上では、ステップ1の脱力したままのキープ奏法以上の集中力が必要になると思います。また、おそらく最も問題となるのが、手の中に力が入っているにもかかわらず、それに気付かず、脱力も併せて意識してしまうことで、打鍵の際に手の中の力が入ったり抜けたりを繰り返す(レッスンでは「バウンドをしている」とも表現しております)キープ奏法とはかけ離れた、カクカクと気の抜けた演奏になってしまうことです。この状態は、キープ奏法を取り入れたレッスンの中でも特に難しい部分の一つで、  私自身も奏法について最初に悩み始めた大学4年以降、一番頻繁に陥り、中々抜け出せなくなった問題でもありましたので、レッスンでもとりわけ大切なポイントと考えております。

 

まとめますと、キープ奏法で弾くためには、「脱力したタッチで弾くならば徹底して脱力したタッチで」、「手の中に力が入ったタッチの場合も徹底してそのタッチを貫き、力を抜いても、余計に入れてもいけない」ということになります。

 

以上、キープ奏法における脱力という言葉の捉え方の難しさ、問題点について書いて参りましたが、脱力は「音の柔らかさ、硬さ」「演奏の柔軟性、自由度」等に深く関わっているため、多くの方にとっていざ気にすると、気にせざるを得なくなる部分ではあると思います。

しかしながら、脱力をしたタッチで弾く場合は完全に徹底しなければならず、ステップ1のタッチの感覚が中途半端な状態で脱力したタッチを混ぜて弾いてしまうと、かえって前よりも「気の抜けた」演奏になってしまい演奏がさらにギクシャクしてしまうこともあるということは、是非大切なポイントとして押さえていただければと思います。

 

今回のブログは以上です。

普段のレッスンでは、常にキープ奏法のステップ1、2を念頭に入れた形で行いつつも、例えば生徒さんの大切な本番が近い場合や、受験や試験などを控えており、ステップ1のタッチの導入にリスクがある場合は、現在演奏されているタッチの中で一番基準となっているタッチを見極め、そのタッチをキープしていただくことでキープ奏法の演奏の特徴を掴んでいただくこともございます(レッスンでは、弾いているタッチの鍵盤の底への圧力の違いをそれぞれ、「ステップ1のタッチのライン」、「それよりも浅い(軽い)、又は深い(重い)ライン」と表現しております)。

上記に関しては、いずれレッスンをテーマにしたブログの際に改めて取り上げてみたいと思います。